あなたの肌に良いことをわかりやすく伝える副院長のコラム

トラネキサム酸について

今回は、肝斑の治療に広く用いられる‘トラネキサム酸’という飲み薬について述べたいと思います。

 

 肝斑は30代から40代の女性に多い、両頬にうすい細かいシミが出現する病気です。経口避妊薬を飲まれていることや紫外線に当たることなどがリスク因子として明らかになってきていますが、発症のメカニズムはまだはっきりしていません。

 

 肝斑の病変の部分ではメラニン色素が沈着した表皮の下で拡張した血管が増えていて、この部分で、プラスミンという人体内でできた血栓の一部を融かし、アレルギーや炎症を起こす酵素が増加し肝斑を誘発する仕組みが推測されています(Kim EH, et al. J Dermatol Sci. 2007 46:111-116)。

 

 トラネキサム酸は、このプラスミンの働きを抑える薬剤で、その働きから、処方薬としては主に止血作用や、粘膜強化作用を期待して使われます。風邪薬などの市販薬にも多く配合されており、安全性の高い薬ではありますが、他の止血薬を内服されている方や妊娠中の方はお使いいただけません。

 

 1979年にトラネキサム酸を蕁麻疹の治療に使っていたところ、飲まれていた患者さんに併存していた肝斑が薄くなることが報告されたのを契機にその有効性が注目され、海外でもその有用性を議論した報告が相次ぎました。なかでも2016年に発表された論文では約50例の男性の症例を含む561例の観察研究がなされ、実に89.7%で肝斑が改善したとされています(Sufan W, et al. J Am Acad Dermatol. 2016 5: 385-392)。

 

 国内外から複数の報告をまとめると、内服を開始してから有効性が確認されるまでの平均期間は4週から8週程度で、約1%で一時的な胃部不快感があったものの特別な対処はなくてもその症状は改善し、その他の重篤な副作用はありませんでした。

 

 これらを踏まえて、私たちのクリニックでは、以前にもご紹介したRe-beau(以前のコラムを参照ください)での客観的な観察も含めたしっかりした診断のもとに、1回1錠を1日3回、まずは3ケ月を目標に内服してもらうようにしています。これまでの論文にも書かれているのですが、治療を中断すると、大半がまた色調が濃くなってきます。1日3回、飲み薬を飲む習慣をつけるのはとても大変ですが、来院されるたびに効き目をたがいに確認しながら治療が継続できるようサポートしつつ進めています。

 

 また、これまで肝斑に対して有効なレーザー治療はないとされてきましたが、日本美容皮膚科学会誌には安全に治療できたとされる報告もみられるようになりました。今後も最新の情報を収集することに努めてまいります。

 

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